2026年1月、TOKYO PROTOTYPE展にI.CEBERGが参加。この一連の記事ではMAISONそれぞれの作品をご紹介。イベントの詳細はこちら

作品概要 : Bio Remix

生物が持つ模様やパターンを服飾として再編集する試み。
成長・分化・反復といった生物的プロセスを探索しながら、
服への転用を通して自然現象へのフェチを解剖・展開していく。

今回はプリミティブな形態でありながら、
多様な模様のバリエーションを持つ海洋生物「ウミウシ」にフォーカスして制作した。

モデル : ミゾレウミウシ

モデル : キイロウミウシ

モデル : サクラミノウミウシ

モデル:パンダツノウミウシ

モデル : ウデフリツノサヤウミウシ

モデリング、テクスチャ、アニメーションの全てに至るまで、
表層的に見えている生物の構造を直接的に転写するのではなく、
その構造を決定づける時空間的なルールや制約を考え、
全てをパラメトリックに組み立てていく。

形態として現れているものをあえて分解・再構築するのは、
非常に時間がかかる遠回りなプロセスであるが、
美しいと感じるもの・心を惹かれるものについて
より深く知りたいという純粋な衝動が、このやり方に自然と向かわせていると感じる。

そして、そのような過程の中で独自の言語体系やものの見方が徐々に立ち上がり、
本来の生物の形態から逸脱した場所で、新たな発見を与えてくれる。

本作品は、このような論理と表層を行き来する自身の制作過程を切り取った断面である。

種や境界を超えたRemixやMashupがもたらしてくれる表現の楽しさや自由、
知らなかった存在を知ることの喜びを感じてもらえたら幸いである。

作りながら自然を紐解く

なぜウミウシなのか、なぜ生き物を作るのかの話。

学生時代から理論物理学が好きで、
流体力学・量子力学・物性物理学・宇宙物理学などの本をよく読んでいた。

紙面に書けるシンプルな数式が、この世界の複雑な現状を説明できる美しさに惹かれていた。

そしてより複雑なものを求めているうちに、最終的には「生命」現象へと興味が移り、シュレーディンガーの「生命とは何か」を読んで感動すると同時に、あまりに多様で複雑な生命の全てを「力学」だけで説明しきることは難しいということも感じた。


その後はユクスキュルの「生物から見た世界」や数理生物学の本をなどを読んでいるうちに、
身体情報学やメディアアートへと接続し、自然や生命をある種外側から考えるようになった。

そして今、I.CEBERGで視覚表現という視点から、
この好奇心を堀り起こしているという流れである。

最終的にかなりカジュアルな方に流れたな?というツッコミを入れたくなるが、
美しさを理論的に「解く」ことよりも、
より美しいと感じるための方法に興味が移っているのかなと、
多少の後ろめたさを感じながら納得している。

また、作ることの楽しさは自分の中では「知る」ことの楽しさと紐付いている。
作るためには造形や質感を観察するし、
自分がやっている「パラメトリック」「プロシージャル」という制作手法では、
その形態がどういう過程やロジックを経て生まれたのか、リサーチや思考を重ねながら作る。

作るという行為を通して、作っている対象物に対する解像度が上がり、より好きになる。
そうした知的探究の楽しさと、モチーフへのラブコールが、自分の制作には含まれている。

ウミウシとの出会い・制作

ウミウシについては2025年12月頭(展示2ヶ月前)に知った、なかなかのミーハーである。
魚と装飾をテーマになんか作ろうかなと思ってリサーチしていたらたまたま見つけて、
可愛さと多様性に取り憑かれた。

あまりに突然の出会いだったのでウミウシで作品を作る計画は当初なかったのだが、
色々な事情があって(PCを改造してたら過去データが飛んだり etc.)、
その場しのぎの策は色々あったのだが面白くないので、
1からウミウシを作って作品にすることにした。

これが12月24日、クリスマスイブ、そして展示一ヶ月前。

定期的につけていた制作日記 : 2025/12/24

初動としては意外と思い通りのものが作れて、非常にテンションが上がってたいようだ。
日々の鍛錬でHoudini筋が発達しているのを感じた。
(本当の修羅場はここからなのだが…)

色々と実験や調整を重ねて、グッズとして販売する3Dプリント用のウミウシが完成。
1月12日。ちょうど年末の休暇もあり、いつの間にか展示まで2週間と少し。

映像展示でディスプレイを2面使う構想はあったのだが、
映像用のモデル調整から、質感、アニメーションなどやることは山積み。
ましてや靴は1つもできていない。

側から見るとやばい。でも今回の制作は、最後3日間くらいまではあまり焦りはなかった。

自分の計画の中では終わるまでの段取りが見えていて謎の自信があったのと、
未知のものを知りながら形にしていく過程が純粋に楽しかった。

やばさが一周回りすぎて悟りに入っていただけの可能性もあるが、
こういう麻痺状態も下手にメンタルを崩したり変に考えすぎないために必要だと思う。

せっかくなので書かれていた日記を載せておきます。

2026/01/14: 質感大変そうだったので、ガラス系でひとまずテンションを上げる

2026/01/16 : 靴も大変そうだったので、物量とガラスとグラフィックでひとまずテンションを上げる

2026/01/22 : ひと通りモデルとマテリアルが揃った(実は1匹ドロップアウトしている…)

2026/01/23 : CC4でベースのアニメーションを書き出してHoudiniで調整

1月23日を最後に、記録は途絶えている…

自然から装飾を学ぶ

なぜ生物や自然現象を、服飾や装飾として落とし込むのかという話。

まず服が好きだから。普通にプライベートで服をたくさん買うという話もあるが、

身体の周辺空間に対する空間演出でもあるし、内面的な趣向の視覚表現でもあるし、
また布という柔らかい素材の複雑な動きなど、
色々な側面があって飽きさせない魅力がある。

そして人間以外の生き物も、外敵や環境から身を守ったり、求愛、移動、獲物の捕獲など、
様々な生存戦略のもとで生まれた装飾を持っている。
人間とは違う身体性や生存環境の中で生まれた独自の装飾、という視点で見ると、
それを人間の装飾に持ち込んでみたいと自然に思ってしまう。


友達の作家が自然は先生だよね、って言っていて、まさにと思った。

ただ、これまでいくつかトライしてみたものの、どうしてもコンセプト止まりという感じで、
実際に着たり身につけれらるように「仕立てる」ためにはもう少し既存の型に学びながら、
そこから実験的に外しを入れていかないと難しいなと感じていた。

そのため、今回の展示にあたっては、引用する自然やモチーフを少し具体的にすること、
そして自然からの引用という方向とは逆に、
人工的な装飾で生物を着飾るという逆方向の転用も視野に入れていた。

「ヘビの鱗で着飾ったギャル」と「ギャルのヘビ」を作ろうと思っていた。
(ディスプレイ2面という展示構成は、生き物系ギャルとギャル生き物を対比させようと思って発注していた)

このヘビの実験をし始めたあたりで、
データが消える事故からグッズどうする問題、スケジュールなど色々な都合があり、
ウミウシを作る方向へと変わって行ったのであった。

そういう経緯もあるので、装飾という観点から人間と自然を行き来するというテーマの制作は、
まだまだ始まったばかりであり、ウミウシに限らず今後も続けていくと思います。

グラフィック周りは図鑑っぽさを意識したので、本にしてみるのもいいかも…

ぜひ続編もお楽しみにしていただけたら嬉しいです。

余談

スケジュールの都合で映像にならなかったウミウシですが、ホホベニモウミウシと言います。
生まれつき頬にチークがついたあざといやつです。
実は分類学的には未記載種で、正式な学名がありません。
(Costasiella sp. と記述され、オオアリモウミウシ属の何者か、という感じの分類です)

持ち前のあざとさで頑張っていただいて、いつか正式に登録される日を楽しみに待ちましょう。

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